連続小説

小説「恋愛依存」第12話
-抜け出せない女の奮闘記-

第12話 本音

お店は元々、新宿西口の裏にあったらしく、顔なじみの客が次々とマスターに挨拶をしにやって来た。

小さな店内は、次々と来る客で、席が埋まっていった。

「ごめん!誠さん!さつきちゃんの隣につめてもらっていい?」

亮介が申し訳なさそうに誠に言った。

「はい。大丈夫だよ」

誠は慣れたように足元のカバンを持って、私の隣に座った。

亮介がコースターとロックグラスを誠の前に置いた。

私は何をしていいか分からず、小さくお辞儀をした。

「どうも、横、失礼します」

誠はロックグラスを持ち、軽く近づけ、乾杯の仕草をした。

とても低く、優しいダンディな声と、大人の雰囲気が漂う香水の香りがふわっと風に舞った。

「あ、どうも」

私は何杯目か分からないハイボールのグラスで乾杯をした。

乾杯の後こそ、見知らぬ人との会話のチャンスなのに、私は人と会話するのが得意ではない。

よく、来られるんですか?

いつ頃からお知り合いなんですか?

シンガポールには、よく行かれるんですか?

とか、たくさん自分から話題を作って会話ができるのに極度に緊張してしまっていた。

来たことのないお店だし、店の中は常連の人達が楽しそうに会話をしているし、

自分がガツガツして入っていこうとしている雰囲気を見られるのが嫌だった。

変なプライドみたいなものが、いつも人生の邪魔をしていたような気がした。

そんな自分が嫌で、残りのハイボールを一気に流し込んで勇気を振り絞った。

「お、おかわりください。同じので」

勢いよくグラスを置いてしまい、少し焦った。

「お!了解です!僕の作るハイボールがさつきちゃんに気に入ってもらえて何よりです」

別の常連と楽しそうに話していた亮介が戻ってきて言った。

あ、亮介が戻って来てくれた。少しホッとした。

「誠さん、さつきちゃんが緊張してるじゃないですか。こういう時は、男性がリードして話ししてあげないと」

亮介は、氷を砕きながら言った。

「あ、ごめん。でも、知らないおじさんに話しかけられても、可哀想でしょ。1人で飲みたいかもしれないし」

誠は、少し照れくさそうに言った。

「え?そうなの?さつきちゃん、1人でしっぽり飲みたい感じ?」

亮介があどけない笑顔で言う。

「え、いや、全然。あの、すいません。私も人見知りというか、

常連さんばかりで、あまりでしゃばるのも、あれかなと。はい」

お酒を飲むとまだ話せるようになるはずなのに、天使のような亮介の眩しさと、出会ったことのないダンディな誠のオーラに緊張の度合いがピークを超えていた。

「あ、僕はそんな、緊張するほどの相手じゃないですよ。まぁ、楽しく飲みましょう」

誠は、ダンディな優しい声で言った。

亮介がハイボールを私の前にそっと置いた。

「じゃぁ、誠さん、さつきちゃんをよろしくね」

亮介が慌ただしそうに別のカウンターのオーダーを取りに行った。

あ、行ってしまった…すごく心細かった。

私は、気合を入れるため、濃いハイボールをグッと一口飲んで、自分に勢いをつけた。

「あ、あの、今日は本当にすごく、人生最悪な日で」

私は勢いに任せて、誠に言った。

「え?」

誠は、飲みかけのロックグラスをそっと置いた。