
第44話「こらえきれない涙」
カウンターに崩れ落ちる私を、亮介の腕がしっかりと受け止めた。
震える肩を包み込み、耳元で低く優しい声が響いた。
「……泣きたいだけ泣けよ」
その一言に、張りつめていたものが一気にほどけた。
こらえようと必死に飲み込んでいた涙が、滝のように溢れ出す。
「っ……どうして……どうして私じゃ、だめなの……」
声は嗚咽で途切れ、まともな言葉にならない。
亮介は何も言わず、ただ背中をゆっくり撫で続けてくれた。
そのリズムが心臓の鼓動と重なって、胸にじんわりと沁みていく。
「誠が……好きだったのに……ずっと、信じてたのに……」
「でも……私、妊娠してるの……ひとりで……どうしたらいいのかわからない……」
途切れ途切れに吐き出すたび、胸の奥に積もった苦しみが少しずつ外へ流れていく気がした。
亮介は驚いたようにわずかに身じろぎしたけれど、それでも手を離すことはなかった。
「……怖いの。未来が……全部、怖い」
「この子のことも……私の人生も……何もかも……っ」
涙で顔はぐしゃぐしゃになり、視界は滲んでほとんど見えなかった。
けれど、ただ一つだけわかるのは、亮介の腕が温かく揺るがず、私を支え続けてくれているということだった。
店内のジャズが、遠い世界の音楽のように小さく流れていた。
その中で、私は子どものように泣き続けた。