
第75話「支えになりたい気持ち」
涙で視界が滲んで、誠の顔がはっきり見えなかった。
両手で覆った顔を少しずつ下ろすと、誠は静かに私を見つめていた。
「……楓」
彼の声は、驚くほど穏やかだった。
「俺にできることがあれば、なんでも言ってくれ。父親だからとか、責任だからとか、そういう言葉は今は言わない。ただ……お前が一人で苦しまないように、俺にできることがあれば力になりたい」
その言葉が胸の奥に深く届く。
——優しい。
あまりに優しすぎて、逆に苦しい。
誠の優しさにすがりたい自分と、もう彼に甘えてはいけないと分かっている自分。
二つの気持ちが交錯して、胸の中が張り裂けそうだった。
「……誠」
名前を呼ぶだけで声が震えた。
誠は小さく首を振り、淡い笑みを浮かべた。
「泣くなよ。お前の涙を見ると、俺もどうしていいか分からなくなる」
その表情を見て、ますます涙が止まらなくなる。
心の中で叫んだ。
——私は、まだ誠を求めてる。
——でも、もうその隣にはいられない。
嗚咽をこらえながら、私はただベッドのシーツを強く握りしめた。
誠はしばらく黙っていたが、やがて小さくため息をついた。
「……楓。大丈夫だ。お前は強い。だけど……強がりすぎるな」
その声が優しく胸に染みて、また新しい涙が頬を伝った。