
第74話「隠せない真実」
亮介が出て行き、病室には静けさが戻った。
私は落ち着かない心臓の鼓動を抑えようと、シーツを握りしめた。
窓際に座っていた誠が、しばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
「……楓。さっきの話な」
私は息をのんだ。
「……話?」
誠はゆっくりとこちらを見た。
その瞳は優しいのに、深く見透かすような光を帯びていた。
「俺、全部聞いてた。亮介が山形に帰ることも……それから楓が、神戸に帰ってお母さんと一緒に育てるって話も」
胸がぎゅっと掴まれたように苦しくなる。
「……」
誠は少し微笑みながら、首を横に振った。
「嘘だろ? 3年も一緒にいたんだ。楓とお母さんの関係がどうだったかくらい、俺は知ってる」
声は責めるような調子ではなく、むしろ諭すように穏やかだった。
「……亮介の夢を応援したくて、そう言ったんだろ」
私は視線を落とし、唇を噛みしめた。
頬を伝う涙を止められない。
「……うん」
言葉が詰まって、それ以上の説明ができなかった。
嗚咽をこらえながら続ける。
「亮介に心配させたくなかったの。……山形に帰って、酒屋を継いでほしいって、本気で思ってるから」
声を絞り出すたびに、胸の奥の張りつめたものが崩れていく。
誠は静かに頷き、ベッド脇に腰を下ろした。
「楓……そういうことか」
その声は優しく、どこか胸に沁みた。
「自分を偽ってまで、人の背中を押そうとする。……お前は昔からそういうところがあるな」
その言葉に、涙が堰を切ったように溢れた。
私は嗚咽を押し殺しながら、両手で顔を覆った。
誠の声が静かに重なる。
「……全部一人で抱え込むな。亮介のことも、自分のことも。もっと素直になっていいんだ」
私は泣きながら、何度も頷くしかなかった。