第2話 スローモーション
「渋谷ってよく来るの?」
純粋色白坊主君が言った。
「あ、いえ、あんまり、、人が多いのが苦手で、、」
土曜日の夕方6時に待ち合わせをして、ふと時計をみると6時50分を過ぎていた
こいつは、一体どこへ向かっているんだろう
そもそも普通は、居酒屋とかレストランとかを予約してるんじゃないのか?
渋谷を知らないんだったら、予約しておいてとか言えばいいだけじゃん
いや、予約しといてとか言われる丸投げ男だったら会いたいと思わない
いや、でも50分間、あてもなく渋谷を歩き回るよりかはマシかもしれない
「俺さ、こうやってあてもなく渋谷を歩くのが好きなんだよね」
彼は、キラキラ光る笑顔で言った。
いや、知らんがな。一人でやれよ。思わず声に出して言いそうになった。
アプリの写真とは、別人の彼は、想像する3倍ぐらい色白で、中学の野球少年のように坊主頭で、Tシャツとジーパンにサンダルと黒いリュックを背負い、オシャレとは言えないけど、嫌いではなかった。
私は、わざわざこの日のために服を買いに行ったのに、もう少し頑張れなかったのかと思いつつ、ショーウィンドウに映る自分と彼を見つめながら、自分も大したことないじゃないかと我に返った。
信号が赤になり、ようやく止まった。
「あぁーさすがに疲れたね。どっかで休憩しない?」
背伸びをしながら彼が言った。
「え?休憩?」
思わず、勢いよく彼の顔を見た。
「あ、まだ疲れてない?大丈夫?」
彼が不思議そうな顔で聞く。
「いっぱい歩いたし、疲れたなぁって思ったんだけど、さっぱりしたいなぁって」
私は彼の言っている意味が分からず、驚いた表情で彼を見つめていた。
彼は笑顔で、ゆっくりと赤信号の先の建物に指をさした。
嫌な予感がする。神様、、お願い。神様なんか信じないっていつも言ってるけど、
この嫌な予感が当たりませんように。
嫌な予感がする時は、私の見る世界は、なぜかいつもスローモーションになる。
私は、ゆっくりと彼の指の先を見つめた。