
第69話「残された言葉」
誠はしばらく二人を見つめていたが、やがて静かに立ち上がった。
「……少し外に出るよ」
その声は落ち着いていたが、どこか張り詰めた響きが混ざっていた。
私が顔を上げる前に、誠は背を向けて扉へ向かった。
ドアが閉まると、病室には静寂が落ち、私と亮介だけが残された。
「……楓」
亮介が低く名前を呼ぶ。
彼の腕の温もりがまだ残っていて、涙がまた込み上げた。
「ほんと、心配したんだぞ。昨日から全然連絡つかないし……」
その声は震えていて、言葉の端々に焦りが滲んでいた。
私は唇を噛み、か細い声で「ごめん」と繰り返した。
すると亮介は、ふっと息を吐き、少し強い声で言った。
「……無理するなよ。俺がいるから」
その一言が、胸の奥に深く響いた。
思わず顔を上げると、亮介は自分が言ったことに気づき、少し戸惑ったように視線を逸らした。
その横顔を見つめながら、私は心臓が大きく鳴るのを感じていた。
——誠に言ってほしかった言葉。
——でも今、それを言ってくれたのは亮介だった。
複雑な感情が渦を巻き、言葉にならない思いが涙に変わって溢れ落ちた。