
第64話「思わぬ再会」
いつのまにか、翌朝を迎えていた。カーテン越しの光が差し込み、点滴の雫が静かに落ちていた。
まだ頭は重く、体も鉛のようにだるい。
ノックの音がして、看護師がそっと顔を出した。
「草野さん……お父さんが来られました」
「……え?」
思わず声が裏返る。
看護師は小さく説明した。
「母子手帳に父親の欄が記入されていましたので、緊急連絡先として病院からご連絡を差し上げました。驚かせてしまってごめんなさい」
——母子手帳。
役所で渡された時、なんとなく名前を書いてしまった。
誠の名前を。
胸がぎゅっと縮む。
顔を上げると、ドアの向こうに立っていたのは——誠だった。
スーツ姿のまま、少し乱れた髪に疲れた表情を浮かべている。
けれどその瞳は、真剣にこちらを見つめていた。
「……楓」
低く、優しい声。
私は息を飲んだ。
言葉が喉に詰まり、涙がにじむ。
どうしてここに。
どうして今さら。
それでも、会いたいと願ってしまっていた自分がいた。
病室の白い空気の中で、私と誠の視線が絡まり、時間が止まったように感じた。