
第27話「届いたメッセージ」
仕事を休んだその日、私は家に帰ると、玄関で靴を脱ぐのも面倒になって、そのままベッドに倒れ込んだ。
カーテンを閉め切った部屋は昼なのに薄暗く、静かすぎて余計に心がざわついた。
食欲はまったくなかった。
冷蔵庫に何かあるかもと思ったけど、立ち上がる気力すら湧かなかった。
——誠から、何か連絡があるかもしれない。
スマホを握りしめ、通知が光るのをじっと待つ。
でも、画面は何も変わらなかった。
時折、暗い鏡のように自分の顔が映るだけ。
腫れた目と乾いた唇が、みじめさを突きつけてきた。
「……誠……」
小さく名前を呼んでも、返事は返ってこない。
そんなとき、不意に着信音が鳴った。
思わず心臓が跳ねる。
でも、表示されていたのは——亮介の名前だった。
『大丈夫?』
短い文字が画面に並ぶ。
それだけで、胸が熱くなった。
誠から欲しかった言葉。
でも、それをくれたのは亮介だった。
指が震えながらも、私は打ち込んだ。
『大丈夫じゃない』
送信ボタンを押した瞬間、涙がこぼれ落ちた。
強がってばかりいたけど、本当は全然大丈夫じゃなかった。
数分もしないうちに、また通知が届いた。
『今から行く。待ってろ』
心臓が大きく跳ねた。
でもすぐに、もう一通。
『……あ、でも住所知らないわ。教えてくれないと行けないじゃん』
画面を見つめたまま、私は固まった。
——住所を教える?
この部屋は、誠と過ごした三年間の思い出で埋まっている。
一緒に選んだカーテン、彼が買ってくれたマグカップ、何度も肩を並べて観た映画のDVD。
その全部がまだそこに残っている。
「……ここに、亮介を入れてもいいの?」
心の中で問いかける。
まるで、誠との最後の居場所を侵されるようで、指が動かない。
でも、孤独に押し潰されそうな今、彼に来てほしい気持ちが勝っていた。
「もう一人じゃ耐えられない……」
震える指で、私は住所を打ち込み、送信した。
「……ほんとに来るんだ」
声に出すと、急に現実味が増して、涙と一緒に胸が熱くなった。
やがてインターホンが鳴った。
重い体を引きずって玄関を開けると、亮介が立っていた。
傘を閉じて、濡れた髪を手で払いながら、真剣な眼差しを向けてくる。
「……楓」
名前を呼ぶ声が、胸の奥まで沁みた。
その瞬間、張りつめていたものが切れ、私は玄関先で亮介の胸に飛び込んだ。
「……大丈夫じゃない……」
泣き声混じりにそう言うと、彼の腕がしっかりと私を抱きとめた。
外では冷たい雨が降っていた。
けれど、亮介の胸の中だけは、不思議と温かかった。