第6話 始まりのカクテル」
ゆっくりとドアを開けると金髪君が心配そうにおしぼり片手に立っていた。
「あ、あれ?血はでてないんだ。よかったぁ」
彼は心の底から安心した様子で、深いため息をついた。
「あ、ありがとうございました。口紅がついてただけみたいで、ご心配おかけしました」
私はうつむきながら、背の高い彼を少し見上げるように言った。
「はい、どうぞ。こちらのお席とってますよ」
低音のハスキーボイスがバーのカウンター越しから聞こえてきた。
少し髭が濃い50代ぐらいの渋いマスターがコースターを置きながら言った。
「せっかく来たんだし、1杯だけでも飲んで行ってよ!今日オープン記念だから、1杯目は特別に半額!」
金髪君は、まぶしい笑顔で微笑みかけてくると、私の後ろに回って、背中を軽く押した。私は、二人の言われるがままに案内された席に座った。
こんなはずじゃなかったんだけど、たしか私は、運命の男かもしれない男に絶望して、渋谷をさまよい歩き、
どこにあるか分からないバーの店員に声をかけられて、今、私は、ダンディな一人では絶対来ないであろうバーに
どうしていいか分からない状況に体をこわばらせながら座っている。
「何飲む?ワイン?ハイボール?カクテル?」
金髪君は、気がつくとカウンターの中で壁にかかっているメニューを指さしながら言った。
「あ、あの、あんまりお酒強くなくて、あの、弱めのカクテルを、、」
私は、彼ら二人の様子を伺いながら言った。
もしかしたら、今流行りのぼったくりバーかもしれない。
ここで酔ったいきおいで、クレジットカードを盗まれるかもしれない。
私は膝に置いている鞄を少し力強く、ぐっと掴んだ。