
第40話「強引な誘い」
「じゃあ、俺は……」
誠が視線を逸らしながら口を開いた。
「用事を思い出したから、今日は——」
その言葉を最後まで言わせまいとするかのように、亮介が軽快な声を被せた。
「おいおい、誠さん! せっかく来たんだから一杯くらい飲んでいこうよ!」
彼はトレイを片手に、いたずらっぽい笑顔を浮かべた。
「二人が外で並んでるの見て、てっきり一緒に来たのかと思ったのに。まぁ偶然でもいいじゃん。マスターもきっと喜ぶよ」
誠は少し眉を寄せ、ためらうように私をちらりと見た。
私はその視線に答えられず、うつむいて足元を見つめた。
胸の奥で言葉にならない感情が渦巻いていた。
「遠慮しなくていいって!」
亮介はそう言いながら、誠の腕を軽く叩き、私の背中を軽く押した。
「ほら、楓も入ろ。外、寒いだろ?」
その明るさに逆らう力は、誰にもなかった。
誠は小さくため息をつき、観念したように肩を落とす。
「……一杯だけな」
その言葉に亮介は満足そうに頷き、ドアを大きく開けた。
「決まり! じゃあ、今夜は久々に三人で乾杯だ」
私は小さな心臓の音を必死に抑えながら、一歩足を踏み出した。
バーの中から流れてくる温かなジャズの音色が、妙に遠く、そして重く響いていた。