
第56話「答えられない問い」
温かいハーブティーの湯気がふわりと上がる。
少しだけ心が落ち着いた気がして、カップに唇を寄せた。
そのとき——。
隣の少女が、氷をストローでかき混ぜながら、無邪気に問いかけてきた。
「ねぇ、楓さんって、亮介とどういう関係なの?」
「……っ」
思わずカップを持つ手が止まった。
目の前が白くなる。
どう答えればいい?
友達?
ただの常連?
それとも……。
言葉を探して口を開きかけた瞬間、亮介がすっと間に入った。
「おいおい、そういうのはお前が気にすることじゃないだろ」
おどけたように笑いながら、軽く少女の頭を小突く。
「俺と楓のことは、バーの秘密ってことで」
「えー! なにそれズルい!」
少女は頬を膨らませ、わざと大げさに肩をすくめた。
周りには笑い声が広がったけれど、私の胸の奥はざわざわと落ち着かないままだった。
亮介の軽い言い方に救われたような気もするし、逆に余計に答えが見えなくなったような気もした。
——私たちは、一体どういう関係なんだろう。
カップを両手で抱えながら、私は自分の胸の奥に湧き上がる問いに答えられずにいた。