連続小説

小説「恋愛依存」第5話
-抜け出せない女の奮闘記-

第5話 鏡

「ひどい顔…」

鏡の中の自分は、まさに心の中をあらわしているようだった。

気合いを入れて化粧をして、久しぶりに服も買ったけど、

なんの意味もなかった。

負け犬そのものが鏡の中にいた。

また泣けてくるのかと思ったけど、
鏡の中に映る自分の顔に思わず笑いが込み上げてきた。

あまりにひどい顔に笑いが込み上げて来たのではなく、

ガサツに涙を拭っていたので、気合いを入れた化粧は崩れ、

手の甲についた真っ赤な口紅で涙を拭ったせいで、

真っ赤な涙が流れ落ち、流血しているようだった。

金髪客引き男が異様に焦っていた光景を思い出して、おかしくて、笑いが止まらなくなった。

訳のわからない男に失望し、どこの誰かわからない男に救われた自分がいた。

ドンドンドン!
トイレのドアが慌ただしく鳴る。

「だ、大丈夫?消毒とか、いる?」

彼が心配そうにドア越しでに話しかけて来た。

「あ、だ、大丈夫です。く、口紅がついてただけ…なんで」

私は、カバンの中から化粧ポーチを探しながら言った。

「え?き、きこえないんだけど、とりあえず、大丈夫ってこと?」

心配そうに彼が言う。

「だ、大丈夫です!」

私は大きく深呼吸をして、少し大きめの声で言った

彼の声が止んだ。

私は、早く外に出て、猛ダッシュして、家に帰りたかったが、

この顔で外には出れないので、まずは顔を洗った。

化粧ポーチから一泊分のお泊り用の洗顔と乳液セットを取り出した。

会った途端、ラブホテルに案内されて幻滅して走り去ったくせに一泊分のお泊まりセットをちゃっかりポーチの中に隠している自分に嫌気がさした。

洗顔をして、ハンカチで顔をおおって、大きく深呼吸をした。

頭の中で、今日のために準備をした自分が駆け巡っている。何かを期待し、胸を弾ませながら服を買いに行き、

めったに来ることのない渋谷のオシャレなレストランをネットで探しながら、色白坊主頭くんと楽しく食事をしている自分を思い返していた。

今ここにいるお洒落なバーも、1軒目の楽しいレストランの後に少しほろ酔いで来るはずだったのに、席にも座らず一目散にトイレに駆け込み、私は狭いこの場所で、顔を洗っている。

何で私はいつもこうなるのだろう。もう無理なのかな。私みたいな人間を愛してくれる人なんて、この世に存在しないのかな。

ダメだ。また全てを諦めたくなる弱い自分が出てくる。大きく深呼吸をする。

「大丈夫。大丈夫だから、諦めたらダメ」

小さく自分に言い聞かせ、軽く化粧を直して、ゆっくりとドアを開けた。