
第55話「揺れる視線」
「楓、体調どうだ?」
亮介がカウンター越しに身を乗り出し、真剣な眼差しを向けてきた。
「顔色……やっぱりまだ良くない。無理して来てないか?」
私は思わず胸の奥が熱くなった。
——こうして心配してくれるだけで、張り裂けそうだった気持ちが少し和らぐ。
けれど、その隣に座る少女が、ピタリと動きを止めた。
ストローを噛んだまま、じっとこちらを睨むように見ている。
明るかった声色が消え、唇が尖っていた。
「……ふーん、亮介って、そういう顔もするんだ」
拗ねたような声でつぶやくと、グラスをわざと大きな音を立ててテーブルに置いた。
私は戸惑い、笑顔を作ろうとしたけれど、喉がつまって言葉が出なかった。
嫉妬——そう呼ぶしかない視線が突き刺さってくる。
年の差も境遇も違う少女の存在が、私をさらに追い詰めていく。
「……楓さん、今日は顔色が悪いですね」
マスターがタイミングを見計らうように声をかけてくれた。
「温かいハーブティーをお持ちしましょうか。身体を冷やさない方がいいですよ」
「ありがとうございます……」
私は小さな声で答え、カウンターの木目を見つめた。
亮介の優しさに救われたいのに、隣の少女の視線がそれを許さない。
胸の奥がまた重くなり、心臓の鼓動だけがやけに大きく響いていた