連続小説

小説「恋愛依存」第73話 -抜け出せない女の奮闘記-

第73話「沈黙の裏側」 ※修正版

「だから……亮介は気にしないで。山形に帰って酒屋を継ぐこと、応援するから」

笑顔を作って言ったその瞬間だった。

病室のドアが静かに開き、誠が入ってきた。

「……戻ってきてもいいかな」

低い声が落ちる。

私と亮介は同時に振り返り、驚いたように目を見開いた。

誠は特に何事もなかったように落ち着いた表情で、ドアを閉めて中へと歩みを進めた。

窓際の椅子に腰を下ろすと、私たちの様子を探るような素振りも見せず、ただ静かに深呼吸をした。

亮介が先に口を開いた。

「……俺、そろそろバーに戻らないと。開店準備あるから」

そう言って私をちらりと見た。微笑もうとしたが、どこかぎこちなかった。

「亮介……」

呼び止めたい気持ちを押し殺し、声は小さく消えていった。

彼はそれ以上何も言わず、誠に軽く会釈して病室を後にした。


扉が閉まると、誠が窓の外に目をやりながら口を開いた。

「……調子はどうだ」

その声は穏やかで、まるでさっきまで廊下にいた人間とは思えない自然さだった。

まるで何も聞いていなかったかのように振る舞う誠。

私は胸の奥に妙なざわめきを覚えながらも、小さく頷いて答えた。

「……大丈夫。少し落ち着いたから」

誠は静かに頷き、それ以上は何も問わなかった。

しかし、その沈黙の奥に隠されたものが何なのか、私にはどうしても見極められなかった。