
第47話「静かな朝」
カーテンの隙間から射し込む朝の光に目を細めて、私はゆっくりと目を覚ました。
見慣れない天井。
やわらかな寝具の匂い。
——そうだ、ここは亮介の部屋。
昨夜泣き疲れて眠ってしまったことを思い出し、胸の奥がじんわりと熱くなる。
身体を起こすと、ブランケットが肩から滑り落ちた。
きちんと整えられているのは、私が眠ったあとに亮介がかけ直してくれたからだろう。
ベッドの脇の小さなテーブルには、水の入ったグラスと、やさしい香りのするハーブティーのティーバッグが置かれていた。
横には短いメモ。
——おはよう。無理せず、ゆっくり起きておいで。——
思わず笑みがこぼれる。
その字は、彼らしい軽やかさを含んでいて、読んでいるだけで安心できた。
部屋の下からは、かすかに食器の音が聞こえてくる。
きっと亮介がバーの片付けをしているのだろう。
昨日までの胸の痛みが嘘のように、ほんの少し心が軽くなっていた。
けれど——。
頭のどこかでは、誠の涙と「ごめん」という声がまだこだましている。
それを振り払うように、私は両手で頬を叩いた。
「……大丈夫、大丈夫」
小さくつぶやき、ベッドから足を下ろす。
今日が新しい一日の始まりであることを、自分に言い聞かせるように。
私はまだ知らなかった。
亮介が私に伝えていない、大きな決断を胸に秘めていることを——。