
第63話「夜空に問いかけて」
母との電話を切ったあと、病室の中は一気に静けさに包まれた。
天井の白い灯りが眩しすぎて、瞼の奥まで痛んだ。
「……誰にも頼れない」
口に出した瞬間、その言葉が胸に重く沈んでいく。
誠はもういない。
亮介も二週間後には山形に帰る。
そして母ですら、結局は私にお金を頼るしかなかった。
私はひとりだ。
本当に、何から何まで。
窓際に立ち、夜のカーテンを開ける。
黒い空に、いくつかの星が瞬いていた。
都会の光にかき消されそうになりながら、それでも小さく輝いている。
お腹にそっと手をあてる。
そこには、確かに命が宿っている。
——でも、産めるの?
仕事はあと一ヶ月で終わる。収入はなくなる。
シングルマザーになる勇気なんて、今の私にはない。
「ごめんね……」
声が震えた。
赤ちゃんに向かって謝っているのか、自分自身に言っているのか分からなかった。
堕胎という言葉が頭をよぎる。
でも、その瞬間、胸がえぐられるように痛んだ。
「どうしたら……いいの」
涙がぽろぽろと落ち、窓ガラスに映る自分の顔を濡らす。
夜空の星は答えをくれない。
ただ瞬きながら、私の迷いを映し出す鏡のように揺れていた。