第4話 新たな扉
「お姉さん、一杯どうですかー?」
客引きの陽キャな男が顔を覗き込み、食い気味で話しかけてきた。
渋谷の駅に向かっているはずが、自分がどこにいるのか分からない。
「今日ね、実は、オープン記念なんっすよ!」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を隠しながら、客引き陽キャに震える声で聞く
「駅…渋谷…渋谷駅は…どっちですか…」
顔を手で隠しながら言った。
相当な挙動不審女である。
「あー渋谷駅っすか…あー全然逆っすね…こっから渋谷駅なら…徒歩50分ぐらいっすよ!」
「え?!」
あまりに驚いて、小さな商店街に響き渡る声で叫んだ。
顔を覆い隠すのも忘れて、私は陽キャ客引き男の顔に釘付けになった。
「あ、あの、だ、大丈夫ですか…」
陽キャのテンションが明らかに下がっているのが目に見えてわかった。
少し青ざめた顔で私を見ている。
「目、目から、血が…と、とりあえず、み、店、ト、トイレ行きましょ!目から血出てるっす!」
陽キャが私の右手首をつかみ、グッと引っ張った。
少し小洒落たバーの扉を開ける。
私は彼の思うままに引っ張られて、小洒落たバーの奥へと吸い込まれて行く。
あ、まただ。
世界がまたスローモーションになる。
バーの扉を開けると心地よい鈴の音がした。
蒸し暑さを忘れるクーラーでキンキンに冷えた店内の風が体中を刺激する。
スローモーションの世界で、店のカウンターの中で驚いた表情のマスターらしき人が見える。
「ここっす。とりあえず、鏡!鏡見て!」
バタンッ!と勢いよくトイレの扉が閉まる音で現実の世界に戻った。