
第79話「短い返事」
夜が明けても、病室の天井を見つめるだけで、眠れた気がしなかった。
心も体も重く、少し動くだけで全身が鉛のように沈む。
枕元に置いたスマホを開くと、画面の中にはまだ亮介からの「無理してないか?」の文字が残っていた。
胸の奥がまたざわつき、指が勝手に震える。
私は深呼吸をして、短く打ち込んだ。
――「大丈夫」
本当は、大丈夫なんかじゃない。
でも、これ以上心配をかけたくなかった。
送信ボタンを押した瞬間、胸がきゅっと締め付けられる。
数分後、画面に新しい通知が届いた。
「……そっか。でも、その返事、すごく元気な人の言い方じゃないな」
メッセージの向こうで、彼が心配そうに眉をひそめている顔が浮かんだ。
思わず目頭が熱くなる。
どうして、こんな短い返事ひとつで気づいてしまうんだろう。
誠には言えなかった心の揺らぎを、亮介には見透かされている気がした。
「……ごめんね」
声にならない言葉を呟きながら、私はスマホを胸に抱きしめた。
——二人の間で揺れ続ける心。
逃げ場はどこにもなく、ただお腹の中の命だけが確かな現実として私を支えていた。