
第37話「再会の扉」
泣き疲れた夜から二週間。
体調は少しずつ落ち着いてきて、吐き気はあるものの、前よりはだいぶマシになっていた。
昼間の仕事もなんとかこなし、夜はベッドに倒れ込むだけの日々。
けれど心はまだ、整理できていなかった。
——このままじゃダメだ。
そう思った私は、久しぶりにあのバーへ足を運ぶことにした。
マスターと亮介の顔を見れば、少しは落ち着けるかもしれない。
そう自分に言い聞かせながら、夜の街を歩いた。
バーの看板が見えてきたとき、私はふと足を止めた。
入り口の前に、人影が立っていたからだ。
薄暗い街灯に照らされたその横顔。
「……誠……?」
声に出した瞬間、心臓が大きく跳ねた。
そこにいたのは、確かに誠だった。
スーツ姿のまま、ネクタイを少し緩め、煙草も吸わず、ただじっと扉を見つめている。
まるで、入るかどうかを迷っているかのように。
私は言葉を失い、その場に立ち尽くした。
二週間ぶりに見る彼の背中は、懐かしさと痛みを同時に呼び起こす。
別れを告げられたあの日の雨の夜が、鮮明に蘇った。
「……楓?」
彼が振り返り、目が合った。
驚きと戸惑いが入り混じった表情。
私の胸は一気に熱くなり、呼吸が浅くなる。
どうして今、ここで。
なぜ彼が、このバーの前にいるの。
言葉が見つからず、私はただ唇を噛んで立ち尽くした。
誠もまた、すぐには何も言わず、私を見つめ続けた。
顔をわずかに歪め、今にも涙がこぼれそうなのを必死にこらえているようだった。
夜の空気が一層冷たく感じられ、鼓動だけがやけに大きく響いていた。