
第78話「届いた言葉」
枕に顔を押し付けたまま、どれくらい泣いていたのだろう。
目の奥が熱く腫れて、もう涙も出ないほど疲れていた。
病室の窓の外はすっかり暗く、街灯の光がぼんやりと差し込んでいた。
静けさが逆に胸にのしかかってくる。
誠が去った後の余韻、心に刻まれた重みは、まだ消えてくれなかった。
その時だった。
枕元のスマートフォンが小さく震えた。
画面には、亮介の名前。
開くと、たった一言だけのメッセージが目に飛び込んできた。
――「無理してないか?」
短い言葉。
けれど、その文字を見た瞬間、胸の奥がぐらりと揺れた。
無理してる。
泣きたい。
抱きしめてほしい。
本当はそう返したかった。
けれど、指は震えて動かなかった。
「……どうして、そんな時に……」
声にならない声が漏れる。
誠の言葉がまだ胸に残っているのに、亮介の優しさにまた心が揺れる。
裏切っているみたいで、でも嘘をつけない自分が苦しい。
私は画面を閉じ、胸に抱きしめた。
涙はもう出なかったけれど、心臓が痛いほど鳴っていた。
「無理……してるよ」
誰にも届かない独り言が、暗い病室に溶けていった。