
第67話「選ばなければならない未来」
沈黙の中、私は震える唇をかみしめながら、ようやく言葉を押し出した。
「……赤ちゃんをどうするか……決めなきゃいけないんだ」
自分の声があまりに小さくて、でも病室の静けさに溶け込んで、はっきりと響いた。
誠の肩がわずかに動いた。
彼は視線を落とし、組んだ手の指をぎゅっと握り込む。
「楓……」
名前を呼ぶ声は震えていた。
「私は……一人で育てる勇気なんてない。かといって、諦めるのも……怖い。どうしたらいいのか、本当に分からないの」
言葉を紡ぐごとに涙があふれ、頬を濡らした。
「だから……誠にも、ちゃんと向き合ってほしい」
誠は苦しそうに顔をゆがめ、目を閉じた。
長い沈黙が続き、時計の秒針の音がやけに大きく聞こえる。
やがて彼は、低く、かすれた声で言った。
「……簡単に答えなんて出せない」
私は胸が締め付けられた。
「俺は……前の結婚で失敗して、娘にもちゃんと父親らしいことができていない。そんな俺に……また父親になれるのか、責任を果たせるのか……分からないんだ」
その正直な告白に、私の心はさらに揺れた。
答えを求めていたはずなのに、誠の迷いは、まるで自分の迷いを映し出す鏡のように思えた。
私は涙を拭いながら、ただベッドの上で小さくつぶやいた。
「……時間がないのにね」
誠は何も言えず、ただその言葉に俯いたまま動かなかった。