第9話 エンジェルナンバー1001
ふと我にかえると、私は亮介が置いたばかりの2杯目のカクテルをすぐさま飲み干していた。
「ふっっ」
また渋い声で笑うマスターの声が聞こえた。
「ちょ、わ、笑わないでください」
私は、口元をおしぼりで拭きながら言った。
「あ、いや、すまない」
渋い声でマスターが小さく咳払いをしながら言った。
「もう一杯ください。カクテルじゃなくて、強めのハイボールでお願いします」
私は飲み干したカクテルグラスを亮介に渡した。
「おーいいねー!ウィスキーは何にする?」
亮介は、並べてあるウィスキーボトルをひとつひとつ確認しながら言った。
「なにでもいいです。高くないやつ」
そんなに持ち合わせがある訳でもないけど、たまらなく飲みたいし、酔いたかった。
「了解です~」
亮介は、またセクシーな体形をこれでもかと見せつけながら、私のためだけにハイボールを作っている。
ダメだ。また見入ってしまうとマスターに見られてしまう。
私は、また興味のないお店のコースターを手にとり、眺めた。
BAR1001
コースターに書かれている。そういえば、このお店の名前も知らない。
「1001って、どういう意味か知ってる?」
亮介がサッと新しいコースターの上にハイボールを置いた。
「数字にはエンジェルナンバーっていうのがあって、
1001は、新たな始まりの前兆で、過去をリセットして新たな人生を始める時期っていう意味があるんだって。
ね、マスター?」
カウンターの端で、マスターが小さくうなずいた。
「へぇ、過去をリセット、、」
私が今一番求めている数字だった。